令和4年SMI雑感

12月 「ワールドカップの真の勝利者は日本だ!
11月 パーキンソンの法則
10月 100年企業は「天」と「公」を理念におく
9月 虹は七色でない!!?

8月「翌日からパワハラが全く無くなったんです」
7月 「売ることをやめたら、売れるようになったんです」
6月 名声は霞であり、・・・富は翼をつけている。ただ一つ永続するものは品性である
5月 『勇将の下に弱卒なし』
4月 リーダーの真摯さは人事に現れる
3月 世界一の宰相メルケルの”真摯さ”
2月 プーチン大統領と『マネジメント』
1月 レジリエンスに生きる


令和3年SMI雑感
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《令和4年12月》

 「ワールドカップの真の勝者は日本だ!」

 昨日(29日)、サッカー日本代表監督が森安氏の続投で決まった。良かったと思う。今回の大会では、日本のサッカーが世界のトップレベルに入ってきたという実力も認められたが、森安監督、選手、そしてサポーターの立ち居振る舞いによって、日本人の精神性や文化の素晴らしさを改めて世界に知らしめた。
 
■「日本人サポーターは気品を見せた」

 日本人サポーターがワールドカップで試合ごとに「片付け」をすることが恒例となった。これは先輩から後輩と言うように伝統を受け継ぐ形となっているという。PK戦で負けたクロアチア戦後には、多国のサポーターが多数集ってきて、日本人サポーターの片づけに協力したという。
 そして、海外のメディアやSNSでは、「日本は素晴らしい文化」「日本は別格」「日本は世界の何十年も先を行っている」「日本人を愛さずのはいられない」「他のサポーターたちは、とっくにスタジアムを去っていたのに、傷ついたファンは気温34度の中、ゴミを拾い、ごみ袋に詰めて綺麗にすることを忘れなかった。そんな姿を見て、こんな声が上がった。【この人たちはW杯の真の勝利者だ】と。彼らは勝っても負けてもこれをやるのだ」
 
 日本サポーターの一貫した姿は、世界のフットボールファンから評価を高め続けている。

■選手たちが見せた品格

 選手は大会中に使用したロッカールームをかたづけ、掃除し完璧に元に戻してから、前回のロシア大会と同じように中央のテーブルの上に折鶴を置いて立ち去った。「飛ぶ鳥、跡を濁さず」また「敗軍の将、兵を語らず」で実に格好良い。いたって日本人らしい振る舞いで、武士道に通ずる品格を感じさせてもらった。
 
 英紙「ザ・サン」はその行為を画像付きで記事を掲載した。「日本のロッカールームの中。クロアチア戦でPK戦敗退も、スターたちは感動的なメッセージとオリガミを残してくれた」との見出しを打ち、こう賞賛した。「試合が終わり、選手たちは涙を流したが、ロッカールームをきれいにし、完璧な状態に戻した」「チームはまたオリガミも作り、開催国へのギフトを送った。「日本は大会を通して、素晴らしい喜びを提供した」

■品性が人を動かす

 私は、今回のワールドカップの日本選手、日本人サポーターの振る舞いにより、最後は品性が決める、という、ポール・J・マイヤーの言葉を実感させてもらった。マイヤーは「考えの種を蒔けば行動を刈り取り、行動の種を蒔けば習慣を刈り取り、習慣の種を蒔けば品性を刈り取り、品性の種を蒔けば運命を刈り取る。」と説き、品性が運命を決め、品性しか人の心に残せないことを言った。言葉は関係ない。品性こそが人の心を動かすのだ。

 来年のSMIビジネス塾のテキストとして使用する『アメリカ陸軍のリーダーシップ』も軍のマネジメントを説く本なのに、「リーダーの品格」が最も大きなテーマになっている。
 「陸軍の偉大な将軍ジョージ・マーシャルは、第二次世界大戦前、士官として任官する者たちへ【品格あるリーダー】の重要性について語った。
 『身体的な疲労や辛苦が省みられず、兵士の生命が犠牲とされなければばらないような状況で、兵士たちを指揮しリードする時、リーダーシップの有効性は、リーダーの戦術的能力にはあまり依存しない。それは主に、彼の【品格】と【評判】によって決まる。勇気は当然のこととして評価されるが、むしろ、それまでに確立された評判によって決まるのだ。公正、高い愛国精神、与えられたどんな任務も遂行するゆるぎない決意、これらについての評判だ。』とあり、リーダーシップは結局、最後はリーダーの品性に依るところが大きいことを説く。

 今回のワールドカップの日本人の振る舞いのおかげで、当社の来年の指針が明確になってきた。私は日本も今回のことをきっかけとして、多くの人が「品格」に目覚めていき、生き方としていったなら、必ず日本は再び経済・政治においても復活していくと確信した。

 皆さん、一年SMI雑感をお読みいただきありがとうございました。新しい年が皆様にとって幸多き年となることをお祈りいたしております。
 SMI 小杉(2022/12/30)

《令和4年11月》

 パーキンソンの法則

 先日,建設会社の役員より,「超多忙な状況で、片付け・清掃の時間を私はきちんと時間をとってやるべきだと社長に提案したのですが、社長から却下されました。小杉さんはどう考えますか」と質問を受けた。私は「片付けや掃除が原因で一般業務が遅れているようなら、それに対してはきちんと手当を払わないと問題でしょうね。しかし、社長が清掃や片づけのために別枠で時間をとることで、返って生産性が落ちてしまうと考えるのも経営者としては大切な考え方ですから、そこをよく考え、話し合って決めるべきことでしょうね」と答えた。

■パートの女性の力

 11月2日にリモートによるSMIクライアント大会が、SMIジャパン本部の主催で実施された。4人のスピーカーの中で、北九州市でRケア(株)という会社を経営される女性社長堀江留美氏の一言が、特に印象に残った。「子供を育てているパートの女性は、一般の社員が1時間掛かっていた仕事を10分でやってしまったのです。その後もそうしたことを何度も経験し、彼女たちは限られた時間の中で家事や子育てをこなすことが身に付き、それを仕事でも応用しているのだなと気づかされたんです。ですから我が社は30名近くのほとんどがパートさんなんです。それも自ら望んでパートで働いています」と言われた。
 この言葉にパーキンソンの法則を思い出していた。

■パーキンソンの法則
 
 イギリスの歴史学者シリル・ソースコート・パーキンソンが提唱した『パーキンソンの法則』というものがある。「仕事は、完成まで利用可能な時間を使い果たすように拡大していく」という法則だ。
 パーキンソンが執筆した著書の中に、次のような物語がある。一人の女性の話である。その女性は郵便ハガキを1日に1枚送ることのみが仕事だ。つまり彼女は丸1日を掛けてこの郵便ハガキを1枚送る仕事を完了させる。カードを見つけるのに1時間、自分のメガネを見つけるのに30分、カードに文章・メッセージを書くのに120分、・・・といった形で1日を満たし、1枚のハガキを完成させる。
 この女性の例のようなことはどこでも起きてくる。夏休みの宿題が8月末になってしまうこと等は多くの人が経験した典型的な例だろう。小生もその一人である。

■パーキンソンの法則の克服法

 SMIのタイムマネジメントにおいても、このパーキンソンの法則のような人間の習性を克服する方法は大きなテーマになっている。その為には、@目的の明確化 A自分の時間習慣を知る B時間の構造化 C優先順位の決定 D期限の設定 等が重要と説いている。
 上記のパートの女性達は、自分を客観視し、時間の構造化を図り、仕事の目的に合わせて期限を決めることを実践している。その結果,社員が1時間掛かる仕事を10分で済ませていた。

■良きリーダーはパーキンソンの法則を知っている

 成果を上げる良きリーダーは、このパーキンソンの法則を知っていて、人間の潜在能力をどんな状況においても最も活用できるように環境整備をしていくものだ。

 今年他界されたSMIクライアントの稲盛さんの京セラでは、不景気で工場がヒマなとき半分の社員は草刈り、残りの半分の社員が全力で製造にあたったという。
 またその昔、やはりSMIクライアントであった松下幸之助氏のパナソニック(松下電器)では、大不況の時、製造は半分の社員に任せ、残りの半分の社員は販売に出かけ難局を乗り越えたという。
 こうした二つの事例とも、社員を半分にするという手を打たなかったなら、全社員がパーキンソンの法則に陥ってしまい、誰も潜在能力を発揮できない状況となり、決して難局は乗り切れなかったことと思う。

 今回、役員から相談を受け、油断すると自分もこの法則に嵌って無駄な時間を過ごしてしまうなと感じた。
 今年も残り1ヶ月。そうしたことも頭において悔いのない年にし、除夜の鐘を心静かに聴きたいものである。    SMI小杉(2022/11/30)

《令和4年10月》

  100年企業は『天』と『公』を理念におく

 昨今日本経済の衰退をよく耳にする。しかし、私は200年以上続いている企業は世界の65%(※世界計2061社中日本が1340社)を占め、圧倒的な数になることなどを考えるとき、こうした数字にこそ日本の強さの秘密があると感じ、必ず日本は復活できると考える。
 「マネジメントの父」と言われるドラッカーは、今度新札の顔になる、日本の経済の生みの親渋沢栄一を「渋沢栄一は,近代日本の夜明けに当たり,儒教に根ざした理想の『専門的経営者』像を描いた。この像にやがて魂が宿った。渋沢による卓見の奥底には、『マネージャーを支えるのは、財力でも地位でもなく、社会に対する責任である』という考え方があり、これもまた現実のなりゆきを見通すものだった」と言い、歴史上最も優れた資本家であり経営者の一人と評した。

■近代日本経済の父渋沢栄一

 渋沢栄一を育んだものは、武士道や三方良しを土台とした『天(公)』を相手とした日本の良心ともいえるものだった。
 渋沢が、明治期の日本の経済のもう一人の立役者、三菱の岩崎弥太郎と厳しく対峙したことは有名だ。一言で言えば、渋沢は「公」を貫き、岩崎は「私」に生きたといえる。
 渋沢は岩崎の生き方を「主観的人生観」と言い、「自分は自分のために生まれてきたのだから、他人や社会のために自分を犠牲にする理由はない」という考えも一理あると考え、それも否定はしなかった。しかし、自分の生き方を「客観的人生観」と語った渋沢は、「元来、人がこの世に生まれてきた以上は、自分のためではなく必ず何か世のためになることをするのが義務であると私は信じる。則ち人間生まれると共に天の使命を受けている」と語り、自己よりも社会の利益を優先し公益に生き、日本の資本主義の土台を築いた。

■世界最古の会社「金剛組」の社訓

 200年以上続く会社の特徴は「理念」が明確で、それをしっかり受け継いできたことにあると言われる。世界最古の会社「金剛組」を見てみると、上記の渋沢栄一の言葉と同じで「天」を相手にしていることが分かる。
【一つ、儒仏神三教の考えをよく考えよ。一つ、修行に励め。一つ、人を敬い言葉に気をつけろ。一つ、憐れみの心をかけろ。一つ、私心なく正直に対応せよ。一つ、先祖の命日は怠るな。 ・・・・・・・・・・・
というように、最初に「儒仏神三教」を書いている。また「私心なく正直な対応」も『天』『公』を意識して作られた家訓と思われる。

 また、現代における会社の理念として「花王」のものを見てみたい。花王は1887年に創業され130年の歴史を持つ日本を代表する100年企業だ。花王のホームページには、
【基本理念;『正道を歩む』 ★「正道を歩む」は、創業者・長瀬富郎の言葉を源としています。彼は、勤勉に働き誠実に生きる人々のみが幸運をつかむことができると考えました。私達は例え困難であろうとも、常に正しい道を選択します。 ★私達は、すべての人に敬意、公平さ、共感をもって接し、使命感を抱いて誠実に仕事に取り組みます。これにより、人として、志を共にする仲間が集う花王として、最も力を発揮することができます。 敬意、公平、共感、高い志 ★私達は、易しいことではなく、正しいことを行います。合法的で倫理的な振る舞いが、私達のビジネスの基本です。 法と倫理の遵守】
と記されており、「正道」という言葉から、創業者はやはり『天』と『公』を意識していたことが窺える。

■町工場を『世界のソニー』にした理念

 1990年代に発刊され、今も読まれ続けている名著『ビジョナリーカンパニー』に、ビジョナリーといわれる会社の大きな特徴として、やはり「理念」が明確で、その理念が社員に徹底して浸透されていたことを上げている。その本の中に、創業当時のソニーの理念が紹介されている。
【一つ、技術を進歩させ、応用し、革新を起こして、国民の生活に活かすことを喜びに感じる会社。一つ、日本の文化と地位を高める会社。一つ、開拓者である。他を追随せず、人のやらないことに取り組む会社。】
やはり、『国民の生活』や『日本の文化』というように、そこに渋沢のいう『公』の精神が息づいている。

 ドラッカーは「渋沢栄一が、誰よりも早く1870年代から80年代にかけて、企業と国家の目標、企業のニーズと個人の倫理との関係という本質的な問いを提起した。20世紀に日本は経済大国として興隆したが、それは渋沢栄一の思想と業績によるところが大きい」というように、近代の日本経済は渋沢栄一が儒教を基礎において作ったと説いた。

 SMI社も創立70年になる。これもモティベーションを扱う世界においては異例のことといわれる。それもSMIビジネスの理念【私達の目的;私達は世界の人々をモティベートし、潜在能力を最大限引き出すことに献身します。 私達のビジョン:私達は人々を一人ひとり、組織を一つひとつ変えることによって世界を変えます。・・・・・】という理念に支えられてきたからと感じている。 (SMI小杉) 2022/10/31

《令和4年9月》

  虹は七色ではない!!?

 先日、ある経営者より、「リーダーで、どうしても完全主義で仕事の按配を上手くできない者がいるんです。なかなか”いい按配”ということが理解できないため、全体を見ることができず、結局仕事の生産性を落とし、人間関係を悪くしているようにも見えるのですが、どうしたら良いと思いますか?」という相談を受けた。
 そのリーダーのことは私もよく知っており、以前より良い仕事をし能力は高いと聞いていた。しかし、完璧主義できっちりと仕事がおさまらないと気が済まず、それを人にも要求してしまうという。

◆『宙ぶらりん力』を学ぶことの重要性

 私は上記のような問題は多くの現代人のテーマとも感じている。
 心理学の用語に「曖昧耐性力」という言葉がある。これは「曖昧な状態に耐えられる力、どっちともつかない曖昧な状態や答えが出ない状態でも、不安に振り回されず落ち着いていられる力」のことを言う。
 
 ある学者はそれを分かりやすく「宙ぶらりん力」と表現し、その大切さを語っている。子育ての時に、この曖昧さを教え身に付けるために、結論が出ない時の不安な状態を受け入れ、耐える力を学ばさせた方が良いという。ところが今は、その姿勢を見せるべき親の方が待てない状況になっていて、いつも白黒つけないと前へ進めない状態にある。これでは『宙ぶらりん力』は子供が身に付けることはできないという。

 日本語には前出の「按配」や「適当」「曖昧」というように中途半端を表現する言葉が多数有る。それは日本人が白黒とはっきりさせずに事をおさめる。また、その曖昧な状態のままであっても、事を前に進めることで成果に繋げるという智恵と文化があったように思われる。

◆虹の色は七色ではない!!?

 多くの現代人が二元論に陥っている。そのため、どんなことも黒か白にし、結論を出さないと不安に陥ってしまうようだ。しかし、この世界は圧倒的に曖昧模糊としたものによって成り立っている事が多い。
 例えば典型的な事例として虹の色だ。多くの日本人は虹の色は七色と答える。しかし、海外の人達は全く違った見方をしている。
 アフリカのある部族は8色(赤・橙・黄・深緑・緑・青・藍・紫)、アメリカ6色(赤・橙・黄・緑・青・紫)、ドイツ5色(赤・橙・黄・緑・青)、台湾3色(赤・黄・紫)、南アフリカ[バイガ族]2色(赤・黒)というように同じ虹を見ても、色は全く違う色に見ている。
 
 日本人が、2色に見える南アフリカのバイガ族の人に「あなたの見方は間違っている」と言っても通じないし、受け入れてもらえない。その人達と付き合いたいなら、そうした時こそ曖昧耐性力を発揮し、そうした曖昧さを「人間の感性とは面白いものだな」と、人間の不思議さ・多様性と感じた方が、良い関係をつくることとなる。

◆良い結論よりも善い「問い」で生きる

 私は曖昧さ考える上で、「良い結論」を求めるのではなく、「善い問い」で生きて行くことが人生を豊にすると考える。
 上記の虹の例で言えば、虹は何色に見えるか世界の人を調べて調査し、何色が多いか結論を出そうなどと考えずに、なぜ、文明、文化によって虹の色が違って見えるのか、また8色以上に見える人や部族はいるのだろうかと、問うた方が面白いし、視野や可能性が広がっていく。
 人間に必要なのは、いかにも正しそうに見える結論や答えではなく、未来に明かりをともし、導いてくれる正しい『善い問い』こそが重要なのだ。(※2021年6月のSMI雑感「問いこそ答えだ!」を御参照下さい)

◆SMIの『勝利者の心構え』も曖昧さ?が鍵を握る
 
 SMIでは、勝利者の特徴としてタフであることを上げ、その鍵は「柔軟性」にあると説く。
『強く、あるいは固いものであるが、脆くはなく、柔軟な性質を持つ。そして、外力に対して、破壊されずたわむことができる。(そしてその柔軟性によって)大きな緊張に対して、分裂することなく対処できる。』(※PSPプログラム Lesson9勝利者の特徴より)これは勝利者が、”曖昧さ”も受け入れる柔軟性と、その不安に打ち勝つ”タフ”さを持っているともとれる。

 今年は、日中国交回復50周年の年だ。この日中の国交回復は田中角栄と周恩来という「曖昧」さの大切さをよく知り、それを受け入れられる度量がある二人の偉大なリーダーによって成し遂げられた。その時も日中の懸案だった「尖閣諸島」の話になった。その時、どちらからともなく、「この問題は、将来優秀な子孫が現れて解決してくれるでしょう」と、正に曖昧模糊とした結論で決着した。これはこの二人の偉大なリーダーが、正にSMIの提唱する「勝利者の特徴』を持った人物だったからに外ならないと、私は考えている。 (SMI小杉)2022/9/30


《令和4年8月》

  「翌日からパワハラが全く無くなったんです」

 先日、産業カウンセラーの合格証が届いた。1年がかりだったが、晴れてカウンセラーになることができた。学びは大変だった。800Pに及ぶテキストを何度か読み返しり、歴史・心理学・法律・組織論・コミュニケーションと多岐にわたる学習で、若い人に付いていくのに苦労した。しかし、学びの内容は人類の叡智と教養に溢れていて、学びは本当に貴重な時間となった。
 この経験を整理するという意味でも産業カウンセラーについて紹介しておきたい。

■カウンセラーの夜明け

 アメリカで1928年から3年間、カウンセリングの源流をつくったと言われるホーソン研究というものが行われた。この実験の4つの柱は@照明と生産高の関係、A継電器組立作業の労働条件の変更の効果の実験、B従業員面接調査、C配電盤電線巻き作業の観察調査、というものだった。
端的に言うと、その実験において@ACにおいては余り大きな効果が認められずB従業員の面接こそが最も大きな成果として現れた。この実験結果は科学的手法が中心となっていたアメリカ産業界に衝撃を与えた。
 この面接法は、従業員に秘密の厳守を伝え、発言に対して一切意見やアドバイスをせず、辛抱強く友好的に接するという非指示的カウンセリング手法に通ずるものだった。その結果、従業員が語っている事柄は、それが事実かどうかよりも、どう思い感じたかであり、それが従業員の行動を左右していると、そして聴いてもらえたことで従業員にカタルシス(心理的変化)が生じることが明らかになった。
その後ホーソン工場では、従業員の面接を中心とした人材育成を取り入れることとなる。
そして多くの会社で「人間関係論」を土台とした、面談やカウンセリングを取り入れることとなった。

■産業カウンセラーの養成講座を体験して

 産業カウンセラーの養成は、傾聴実践を中心に行われる。10ヶ月近く毎週土曜日1日かけて行われた。実践においては徹底した傾聴の実践だ。指示的態度は一切禁止される。私にとっては家庭における態度、仕事における態度と全く逆の姿勢が要求されるので、ほんとうに苦しい、つらい体験だった。
 しかし今は「聴く」ことの力を実感している。少なくともこの養成講座で学ぶ以前よりは妻の話もクライアントの話も落ち着いて聞けるようになった。先日もある女性より、「小杉さんと話していると心地良くリラックスして話すことができ、ホッとします」と言って頂いた。今まで、こういう言い方をされたことは一度もなかったので、これも一つの成果かなと思い嬉しかった。
 また、カウンセラーの流れは@リレーションづくり、A問題の把握、B目標の選択、C目標の達成、だ。これはSMIの行動計画の流れと重なる。養成講座での学びは多くの点で、SMIイズムと共通の点も多く、心理学的に科学的にSMIの素晴らしさに確信を持たせてもらった。
 
■「翌日からパワハラが全く無くなったです」

 過日、ある会社の経営者に産業カウンセラーの資格を取得したことをお伝えしたら、「実はウチの会社でパワハラがあって」と仰られた。パワハラ防止も産業カウンセラーの大きな役目なのです、とお伝えしたら、一度会社で話をしてもらえますかということになり、仕事終了後1時間半取って頂き、産業カウンセラーの学びを活かした、個々人が自ら考えて頂く方法でセミナーを実施した。
 パワハラをやっているリーダーも、パワハラを受けていた社員も真剣にセミナーに臨んでくれた。一週間後に経営者に電話をすると「いやぁ小杉さん有り難うございまいた。パワハラを受けている人間が、『翌日からリーダーのパワハラは全く無くなりました』と言ってくれています」とのことだった。とっても嬉しかった。1年の学びがこうした形で役立てて頂くことができ、10ヶ月のつらさが吹き飛んだ気がした。

■産業カウンセラー倫理綱領

 合格証書と一緒に「産業カウンセラー倫理綱領」が入っていた。その前文には
「産業カウンセラーは、心の問題に関わる専門家として倫理を自覚し、優れた能力と識見とを基礎に向上心と高い自律性を持った生き方をすることにより、社会の尊敬と信頼を得られるものと確信する。」とある。
 そして第1章の「使命」には「産業カウンセラーは、産業の場での相談、教育及び調査などにわたる専門的な技能を持って勤労者の上質な職業人生(QWL)の実現を支援し、産業社会発展に寄与する。」とあった。

 今私はSMIのモティベーターではあるが、カウンセラーとしてもスタートに立つことができた。産業カウンセラーの使命と責任を果たすため、上記の倫理綱領を胸に、自己研鑽に努めていくと決意させて頂いている。(SMI 小杉) 2022/8/30

《令和4年7月》

  「売ることをやめたら、売れるようになったんです」

 先日、SMIモーニングアカデミーで、お客をファンにするということが話題となった。食品の卸業を営んでおられるH社長が、「このドラッカーの“customers”と”a customer”は全く違うという考えは素晴らしいですね。目からウロコでした」と言われた。確かに、ここには顧客を単なる一般客と見るか、一人の人間として見るかという大きな違いを感じる。

■「売ることをやめたら、売れるようになったんです」

 SMIビジネス塾に、ここ10年参加されている建築・不動産販売業のS社長が上記の話に触れ、「うちは正にこのドラッカーの言葉通り、売らねばとしゃかりきになっている時は、お客様が皆一般客になってしまっていました。だから、一度仕事をやるとリピーターとなって戻ってきてくれるお客はほとんど無く、馬車馬のように売り続けなければならなかったのです。しかし、SMIを始めた頃から、そうした事を一切やめ、売らない営業に切り替えて、お客様の困りごとだけを聴きに行くというスタンスにして、売ることをやめたら全く逆のことが起きて、お客様が我が社を指名で仕事を出してくれるようになり、正にファン作りに成功することができたのです。その後一度も売上げを落としたことがないのです」と言われた。
 正に”a customer”に徹して、ファン作りに成功したという良い実例だった。

■従業員一人ひとりのファンを作る

 やはりSMIビジネス塾に参加され、SMIの社内塾を毎年続けておられるバイクショップのS社長が、「うちはスタッフ一人ひとりにファンがついています」と言われた。
 その会社は、わたしが「スズキ」に勤めていた時からのお付き合いで、社員の定着率が高く、ここ15年定年退職で辞められた方以外は、辞めた人が皆無のお店だ。
 いつ伺っても、メカニックの方とお客様が楽しそうに会話しておられるのを目にする。見ていてスタッフが本当に仕事が好きだ、という思いが伝わってくる。
 このお店のお客様は店のファンであり、従業員の一人ひとりのファンなのだ。これ以上お客様との強い繋がりは無いなと思った。だからこそ、この店の周囲のバイクショップは撤退や廃業に追い込まれていったが、逆にこのお店は従業員も増え、売上げを伸ばしてきた。
 やはりこちらの会社も“customers”ではなく”a customer”に、という店で成功した好例だ。

■ファン作りの極意は?

 現代の消費者は買う物を通して、自分の価値を買う時代に入ったと言われる。
 自分の価値と一致すると、高い安い関係なく買っていくのだ。だからこそ、売られること(価値観の押しつけ)をキラい、自分の価値観を理解してくれる人から買おうとする。逆を言うとお客一人ひとりの価値観を理解する”a customer”の会社に徹していったなら、コロナも不況もほとんど関係無くなり、他との差付けもしやすくて、今こそがチャンスの時代とも言えるようになっていく。

 ドラッカーは、「企業側が売っていると思うものを顧客が買っていることは稀である」という。これは顧客が感じている「価値」を売ろうとせず、企業側の価値を押しつけて販売していることを戒めている言葉だ。そして「顧客のところへ行き、顧客と対話せよ」と説く。経営の本質に戻って、顧客と徹底的に対話し、そのニーズを汲み取るということ。一万件の顔の見えないデータより、数十件の深い対話から導き出されたニーズの方が価値があるということだ。

 現代は激しく変化する難しい時代ではあるが、上記のような会社やお店を見るにつけ”a customer”に徹し、その顧客の価値というところにスポットライトを当てていけば、必ず「ファン作り」に成功し、売上げが増大していくことは間違いないと確信させられる。   SMI 小杉 (2022年7月30日)


《令和4年6月》

名声は霞であり、人気は偶然であり、
 富は翼をつけている。
ただ一つ永続するものは品性である

 
 ある月刊誌を読んでいたら、日本人の品性は低下の一過をたどっているとあった。先日正にそのことを実感する出来事に遭遇した。
 先日、仕事のスキルアップのために学んだ試験のため、県外のビジネスホテルに一泊した。翌朝、朝食時のある女性の態度に驚かされた。朝食はバイキングで食材をトレーに載せて席に着く。その途中コーヒーの砂糖のステックやクリームをわしづかみにして袋に入れていた。とても事情があってそうしているとは思えず、単に余分に自分のものにする行為のようだった。

 それを見ながら、数年前のある出来事を思い出していた。それは自動車関連の会社に、営業の分野で大きな実績を上げて業界においては有名なある社長と二人で、講演会の講師として呼ばれた時の事だった。その社長とはそれ以前、時々仕事上の付き合いもさせてもらっていたが、今は全く付き合いがなくなった。

■品性のなさから付き合いを断念する

 何故かと言うと、その講演会の終了後のホテルでのささいな行為を目にして、それが決定的となり、一切お付き合いがなくなった。

 ホテルにチェックインするときに、私の都合により一泊することとなったため、私が代金を支払った。ところがこの方がご自分が持っていたホテルの提携カードをさっと出されて「ポイントを入れてください」と言う、えっ?と訝しく思った。その後、夕食を共にした。少しお酒が入ったこともあってとは思ったが、「ああ、すぐ無くなるから割り箸をもらってこう」と言いながら、10本くらいをわしづかみにしてバックに入れてしまった。私は唖然とした。色々情報を持っていて、人当たりも良く、とても話のうまい人だったが、私は、その時この人とはもう付き合いたくないと思った。そして今は全く縁がなくなった。私は何故かホッとしている。
 私は、以前よりその人の笑顔や言葉を素直に受け入れられないことがよくあった。それはどうしてかなと思っていた。その疑問は、過日読んだ伊集院静が松井秀喜のことを書いた『逆風に立つ』という本で、明確になった。一言でいえば、悪口が多く品性がないため不快で疲れる付き合いだったから、ということになる。 

松井秀喜の品性の原点

 その本に、大リーグに日本人としての品性を残した松井秀喜の中学の時の父親とのエピソードがある。感動的で、父親として理想の姿がそこにあるのでそのまま載せさせていただきます。

〈伊集院静香との対談のシーン〉
「君は人の悪口を一度も口にしたことがないんだって?」
「野球選手になろうとしてからは一度もありません」
「どうしてそうしているの?」
「父と約束したからです。中学2年の時、家で夕食を摂っていたんです。僕が友達の悪口を言ったんです。すると父が夕食を食べるのを中止して、僕に言ったんです。人の悪口を言うような下品なことをするんじゃない。今、ここで二度と人の悪口を言わないと約束しなさいと・・・。それ以来、悪口は言ってません」
 私はその話を聞き終えて、もう一度彼の顔を見た。彼は恥ずかしそうに言った。
「実はその夕食の席で、どんなふうに友達の悪口を自分が言っていたかをまるで覚えていないんです」
正直な若者だと思った。  ※伊集院静著「逆風に立つ」より 

■ただ一つ永続するものは品性だけ

 日本を愛したチャップリン、アインシュタインは、何度も来日した。そして二人とも日本人を深く愛した。アインシュタインは1922年12月17日に長男ハンス・アルバートと次男エドゥアルドに送った手紙においては次のように記していたという。
「日本人の事をお父さんは、今まで知り合ったどの民族より気に入っています。物静かで、謙虚で、知的で、芸術的センスがあって、思いやりがあって、外見にとらわれず、責任感があるのです。」  
 明らかに、言葉から日本人の慎み深さの中に品性を見ていたことが伝わってくる。品性には多大な影響力があるのだ。

 以前にもこのSMI雑感で書いたことだが、SMI創立者ポール・J・マイヤーは『成功の25の鍵』という本で、「名声は霞であり、人気は偶然であり、富は翼をつけている。ただ一つ永続するものは品性である。(ホウレイス・グリーリー)」という言葉を引いて、人間は人生において品性しか残せないことを書いている。そして「◆考えの種を蒔けば行動を刈り取り、◆行動の種を蒔けば習慣を刈り取り、◆習慣の種を蒔けば品性を刈り取り、◆品性の種を蒔けば運命を刈り取る」と言い、品性が運命を決定すると説いた。

 今、IT、SNSによって動く社会に於いては、益々人を見抜くことが重要になってきていると指摘される。それはまた、昔以上に人間の品性が問われるようになってきたともいえる。品性はその場で作ることも繕うことができないものだから。
 こうした難しい時代を堂々と生きていくために、品性を求め、松井選手のように、「人の悪は言わず」といった小さな当たり前の積み重ねで、品格を磨いていきたいと決意した。  SMI小杉 (2022/6/30)

《令和4年5月》

    『勇将の下に弱卒無し』

 SMIビジネス塾で3年続けて学んでいるドラッカーは、軍隊の戦略や歴史にも詳しい。時々マネジメントの説明に軍事作戦の話も出てくる。確かにリーダーシップやマネジメントの重要性を考える上で軍隊の例はわかりやすい。

■ポンコツの集まりを最強の軍隊に

 過日、講談社の「現代ビジネス」のサイトで、“伝説の自衛官”といわれた伊藤祐靖氏とジャーナリストの島地勝彦氏の対談を読んだ。その中の伊藤氏のアメリカ軍の話は我が意を得たりだった。

(伊藤)アメリカ軍だけでなく、残念ながら日本でもその傾向はあるんですが、ああいう組織(アメリカ海兵隊)に入ってくるのは、ほとんどが、その国の最低の奴らです。身体能力はない、頭は悪い、根性もない、すぐ泣く、痛がり、すぐお腹がすく、そういうパターンが多いというのは、残念ながらありますね。
 各国も似たり寄ったりですが、なかでも“米兵”は大したことない。だけど、“米軍”となると話は別で、やっぱり世界最強だと思います。そんな彼らを、集団としてシステマテックに動かせるところが素晴らしいんです。
(島地)それはつまり、上に立つ指導者が優れていると言うことですか?
(伊藤)そう思います。そういうシステムを作りあげる能力に長けています。軍隊だけでなくアメリカの会社組織、政治、国の仕組みにしても、システムが良くできていると私は思います。移民国家として誕生して、たかだか230年しか経っていないのに、世界の中でこれだけの地位にいるというのは、ガラクタを集めてきて、それなりの力を発揮するシステム作りが上手いんだと確信しています。

■アメリカで最もパワハラが少ない組織は?

 上記の質問に、皆さんはどんな会社や団体が頭に浮かびますか?実は今、アメリカでパワハラが最も少ない組織はアメリカ軍だと言われています。
 現在のアメリカ軍は、パワハラ的なことは絶対許されないといわれています。そうしたアメリカ軍の中にあって、米陸軍の取り組みは強烈で世界のあらゆる組織の中でもっとも厳しくパワハラ防止に取り組んでいるといわれている。
 2011年に参謀総長に就任したオディエル大将の就任最初のスピーチは「我々は有害なリーダーは容認しない」というパワハラ防止宣言でした。そしてこの言葉の意味を参謀総長は「軍のリーダーというのは、部下の命を奪うかもしれない命令を下さなければいけない立場です。しかるに、部下をいじめるリーダーにその資格があるのか。部下をいじめたり、部下を侮辱するリーダーに、部下の命を奪うかもしれない命令を出す資格はない、という考えです。だから、命令を出せない立場に降格させられたのです」と言っている。(※加藤貴之著「上司が萎縮しないパワハラ対策」より)

■パワハラが起きる軍隊では、国家を防衛できない

 どうしてアメリカ軍はパワハラ防止に力を入れるのでしょうか?そのきっかけはアフガン戦争と言われている。
 「2001年のアフガン戦争で、アフガンから陸軍省に戦場の報告が上がりました。働きの悪い兵士がいて、調べてみると、上官に問題がある場合が多いという報告がいくつも上がりました。事態を重く見たトーマス・ホワイト陸軍長官が、陸軍の最高学府とされる陸軍戦略大学に研究を命じました。その結果が出てきて陸軍幹部は衝撃を受けました。
 データ分析の結果、生死を分ける場面では、パワハラ的なリーダーには部下はついていかない可能性が高いことが明らかになったのです。生死を分ける場面というのは戦争の根幹を成す場面です。」(※加藤貴之著「上司が萎縮しないパワハラ対策」より)
 こうした分析・経験によって米軍はマネジメントを洗練させていき、どんな“ポンコツ”が集まってきても、世界最強の軍隊にしてしまうといわれています。

■「勇将の下に弱卒なし」

 上記の故事は、駄目な人間の集まりも、力量があり勇気ある強い将軍の配下には弱い兵士はいなくなる、という意味だ。まさに現在のアメリカ軍はその良きモデルだ。それは真摯さをもったリーダーが、洗練されたマネジメントを実践するときにどんな組織であれ最大のパフォーマンスが発揮できる組織に変わっていくという証明でもある。また、今、戦いの当初はウクライナ軍は圧倒的に不利と目されたロシア軍との戦いに於いて、対等以上の戦果を上げている。それはウクライナのチャーチルとも言われるようになった大統領によるところが大きい。

 SMIDPMプログラムに、アメリカの思想家ヘンリー・サーローの言葉、「組織とは一人の人間の長い影である」とある。私もSMIビジネスを通して、多くの組織でその言葉の正しさを見させていただいた。
 今年のわが社のモットーは、「洗練されたマネジメントを多くの組織に提供し、社会の発展に寄与することを我社の使命とする」とした。私は今、SMIビジネスを通して多くのクライアントとの成長と成果を見させていただき、SMIのマネジメントプログラムを社会に提供することの喜びと誇りを感じさせてもらっている。 SMI小杉(2022/5/31)

《令和4年4月》

リーダーの“真摯さ”は人事に現れる


 北海道の知床の海で大惨事が起きた。未だに12名の方が見つからないという混乱状態にある。早く発見されることを願い、亡くなりになられた方のご冥福をお祈りさせて頂ます。
 
「安全」に関する本で『安全と良心−究極のリーダーシップ』(※竹田正興著)とう本がある。組織の安全論はもちろん、リーダーシップ論としても素晴らしい本で、名著と思う本だ。
 その本で「リーダーシップの反対はカオスである」という言葉に出会った。私に多くの気づきを与えてくれた言葉だ。重大事故の多くは、組織がカオスの状態に陥っている時に起きることが多い。そしてその組織の業績は芳しくないことが多いものだ。
 わが社の取引先は建設関係も多く、安全と深くかかわっている会社が多い。しかし、皆コロナ下にあっても業績を伸ばしており、しっかりとマネジメントが機能している。今回事故を起こした会社の状態が伝わってくるにつけ、
「リーダーシップの反対はカオスである」という言葉そのままだなと思ってしまう。

■安全の仕組みはリーダーの“真摯さ”によってつくられる

コンプライアンスが叫ばれる時代にあって、単なる形だけを整えることに捉われ、多くの会社で仏(仕組みやルール)をつくって魂(心構え)入れずの状態に陥っているように思われる。

 上記の『安全と良心- 究極のリーダーシップ』で、責任ある立場で多くの安全に関わる業務をこなされてきた著者の竹田正興氏は、「リーダーシップの最も重要な点は組織(部下)を成功に導き、その根底に“利他の心”を持つことである。優れたリーダーの“強固な良心”によって組織の健全な文化が形成され、致命的な大失敗などしない安全でレベルの高い組織や国家の発展が可能となる」と書いておられる。

 今年の2月、村上の工場での大火災で、6名の死者を出した県内大手の製菓会社にあっても、知床の事故を起こした会社と同じものを感じてしまう。その後に伝わってくる情報から、本社工場や他の工場にあってもボヤや事故が多発していたことが明らかになってきた。正にこの会社もリーダーシップとマネジメントが機能していないカオス状態にある。事故後3ヶ月経つ今も、多くの問い合わせがあるにもかかわらず、記者会見を一度も開かないことを見ても、そこにリーダーの真摯(良心)の欠如を感じる。

■リーダーの“真摯さ”は人事に現れる

 事故の原因の85%は「人でなく組織にある」と言われる。1950年代、リーダーシップ論を展開したアメリカのP・スコルテという学者は
「品質の問題の少なくとも95%は組織要因に起因する。人為エラーは5%以下に過ぎない。ヒューマンエラーは我々の無視できる程度の問題源に過ぎない。そしてほとんどのヒューマンエラーは組織に要因がある」と説いた。多くの研究者が同じ結論に達している。

 知床の事故を起こした会社は、優秀な船長やベテラン社員を2年前に解雇していた。そのような組織に対しての社長の真摯さを欠いた人事が今回の事故に繋がったという指摘も多い。これは明らかに安全より利益を優先した人事だ。ドラッカーは
「リーダーの真摯さは人事に現れる」という。そうした意味において、この会社の社長には全く真摯さが見られず、人命を直接扱う会社だというのに、組織の形さえなかったのではないかと思えてくる。当然そこにマネジメントは無い。

 ロシア軍の秩序の無さとおぞましさ、新潟の大手菓子メーカーの不誠実さ、知床遊覧船のお粗末な組織・・・どれもマネジメントが機能しない状況にあることを如実に示している。そうした中で、改めてドラッカーの言ったマネジメントの目的を思い出す。

「次の100年を作れるかどうかはマネジメントにかかっている。また、一人の暴君の思うままに人間が蹂躙されるような社会にならず、人間が人間らしく暮らせる社会になるかならないかは、マネジメントにかかっている」


 我社もSMIのマネジメントプログラムを扱ってきた。そのプログラムを活用し多くの会社が劇的に変化し成果を上げられた。そして地域に良き影響を及ばした会社も多々ある。そうした意味でも、健全なマネジメントを社会に普及することはやり甲斐のあることと感じる。改めて、SMIのモティベーターとしてそのチャンスにあることに感謝し、健全なマネジメントを社会に提供することによって社会の発展に寄与していこうと決意を新たにした。 SMI小杉 2022/4/28

《令和4年4月》

世界一の宰相メルケルの“真摯さ

 今、私は社会でで起きるあらゆる事をマネジメントから見るようになった。マネジメントの父ドラッカーは、『マネジメントは人類が営々と築いてきた叡智』と説いた。
 先日ドイツの前首相メルケルの本を読んだ。プーチン大統領と渡り合い、プーチンの野望の重石となっていたのはメルケルだった。その重しがとれてしまったことが、今回のロシア軍のウクライナ侵攻に繋がったという指摘も多い。

■善きリーダーの絶対条件は“真摯さ” P・ドラッカー

 組織を支える土台はその組織に関わる人の信頼関係だ。それはリーダーの真摯さによってもたらされることが多い。ドラッカーは、マネジメントが機能する絶対の条件としてリーダーの“真摯さ”という。

【成功している組織には、あえて人を助けようとせず、、人付き合いも良くない上司が必ずいる。愛想が悪くいつも不愉快そうでありながら、誰よりも多くの人たちを教育し育成する人、最も好かれている人よりも尊敬を得ている人がいる。
 その様な人は、高い目標を掲げ、その実現を求める。誰がどう思うかなど気にしない。何が正しいかを考える。この真摯さという資質に欠ける者は、いかに有能であろうと組織にとっては危険な存在である。真摯さに欠ける者が跋扈するとき、組織は死への道をたどる。】(※ドラッカー著「マネジメント」より)

 メルケルは、真摯さの無い政治家(プーチンやトランプ)が跋扈する世界にあって、逆に真摯さと知性をもってマネジメントした。それは東ドイツで牧師の娘として育ったことも影響している。メルケルの政治姿勢は、上記のドラッカーの「嫌われるが尊敬を集めるリーダー」と重なる。

【メルケルが内容重視の飾り気のない演説にこだわるのは、雄弁に語りかける才能に欠ているからというだけではない。ヒトラーの激しい言葉は、今でも多くのドイツ人の記憶にはっきりと刻まれているのだ。これまでの経験から、メルケルは言葉を盲信せず、慎重に配備すべき武器のようなものと見なしている。リベラルな欧米先進国で民衆を扇動する言葉が飛び交う中、地味ではあるが賢い守護者であろうとしている。
】(※「メルケル−世界一の宰相」より)

 プーチン大統領が長く属していたソ連の秘密警察(KGB)では,社会に”不信と混乱”を起こすことを仕込まれる。そうした組織で育った真摯さのないリーダーの下で、健全なマネジメントが機能することはまずあり得ない。ウクライナの戦争でも、ロシア軍が予想より“弱いのでは“と言われるようになった。ロシア軍にマネジメントが機能していないことを感じる。軍事戦略や戦術にも詳しかったドラッカーもきっと同じことを言っただろうと、私は思っている。

■コロナとの戦いで発揮された“真摯さ“という力

 ドラッカーはマネジメントの目的は三つあるという。@その組織特有の目的を果たすこと、A組織を生産的にし働く人を活かすこと、B事業を通じて社会の問題解決に貢献すること。正にメルケルは15年間、ドイツ政府としての三つの目的を果たすために権力を使い、国をマネジメントした。その好例が、2020年のコロナ対応だった。そしてそれは国民に向けた2020年の3月18日の演説から始まった。

「事態は深刻です。この問題を重く受け止めてください。」メルケルは滅多に使わない強い口調で何度も繰り返した。そしてドイツ人はその言葉を信じた。なぜなら、これまでの15年間でメルケルに嘘をつかれたことは一度もないからだ。・・・事実を粉飾することはなく、事実をでっち上げたことは無い。信頼の積み重ねが、今になって人々の命を救った。

「私達は民主主義国家です。制約に縛られて生きるのではなく、知識や情報を共有し、政治に参加することによって生きていくのです。ロックダウンを実施します。社交的活動は中止です。自宅勤務になります。学校にも居酒屋にもサッカーの試合にも行けません。一番つらいことは、人に会えなくなることです。しかし、距離を保つことが相手への思いやりを示すことになります。・・・犠牲者の数がどれほど増えるのか、愛する人たちを何人失うのか、それは主に我々の行動にかかっています。」メルケルはこの演説を通して、国民に科学的知識と思いやりを届けたのである。それも、賃貸マンションにある自宅の一室から全国民に語りかけたのだ。】(※「メルケル−世界一の宰相」より)

 メルケルは中国で新型の感染症が発生したという段階で、素早くスペイン風邪等の感染症のことを徹底的に学んだ。そして専門家から情報を得ながら、今後どのような状況になっていくかを予想し、マネジメントをとっていった。その結果、各国のリーダーがコロナ対応に苦慮し、支持率を落とす中、ドイツは1日5万人の検査を行い、ドイツの死者数はフランスの3分の1で済んだ。医療崩壊にもドイツは陥らなかった。メルケルの国民の支持は80%に上がった。
 メルケルは政府の目的と責任を果たすことに集中する。良き準備と並はずれた集中力がメルケルのマネジメントを支えていた。

 ロシアのウクライナ侵攻を、マネジメントから見ていくと、より俯瞰して見ることができ、問題の本質が理解できるようになる。そしてロシアの情報が伝わるにつけ、マネジメントが機能しない専制的な組織は必ず行き詰まり、体制の転換をせざるを得なくなると確信している。(SMI 小杉)2022/3/30

《令和4年2月》

 プーチン大統領と『マネジメント』

 去る2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻した。このままいくと、多くの難民と多数の死者が予想される。このニュースに触れ、マネジメントの父ドラッカーが指摘していたことが、正にその通りにロシアで起きていたと感じた。

■組織が機能しない社会は、必ず独裁国家を生むことになる

 ドラッカーが繰り返し言っていたことは「社会を構成する組織のマネジメントが適切にきちんと行われないと、それは必ず専制国家・全体主義になる」ということだった。

  名著「マネジメント」の序には、《組織の効率的経営のため》と書かず、それ以上に重要なことは、組織の適切な経営を通して機能する社会を維持発展することを目的として、この本はある、と書いている。

その[序]を多くのリーダーに、読み考えて頂きたくそのまま掲載させて頂きます。

『われわれの社会は、信じられないほど短い間に組織社会になった。しかも多元的な社会になった。財サービスの生産、医療、年金、福祉、教育、科学、環境にいたるまで、主な問題は、個人と家族ではなく組織の手にゆだねられた。この変化に気づいたとき、『くたぱれ組織』との声があがったのも無理はない。だが、この反応は間違っていた。なぜなら、自立した存在として機能し成果をあげる組織に代わるものは、自由ではなく専制だからである。

社会には、組織が供給する財とサービスなしにやっていく意思も能力もない。しかも、組織の破壊者たる現代のラッダイト(産業革命時の機械破壊運動者)のなかで、最も組織を必要としているのは、声の大きな高学歴の若者である。知識を通じて生活の資を稼ぎ、成果をあげて社会に貢献する機会が豊富に存在するのは組織だけだからである。

 組織が成果をあげられないならば、個人もありえず、自己実現を可能とする社会もありえない。自立を許さない全体主義が押しつけられる。自由どころか民主主義も不可能となり、スターリン主義だけとなる。自立した組織に代わるものは、全体主義による独裁である。全体主義は競争を許さず絶対のボスを据える。責任を与えず恐怖によって支配する。組織を廃絶し、すべてを包含する官僚機構に吸収する。財とサービスの生産は、苦役として、強制的、恣意的、かつ不経済に行われ、膨大なコストのもとに低迷するだけとなる。

したがって、自立した組織をして高度の成果をあげさせることが、自由と尊厳を守る唯一の方策である。その組織に成果をあげさせるものがマネジメントであり、マネジメントの力である。成果をあげる責任あるマネジメントこそ全体主義に変わるものであり、われわれを全体主義から守る唯一の手立てである。』ドラッカー著「マネジメント」より
 というように、30年前にソ連が崩壊し、ロシアとなり、その後の10年の混乱状態の中で、ロシアという国ではマネジメントが全く機能せず、欺瞞と、恐怖と、権力が跋扈する国となり、上記のドラッカーの言った通り専制独裁国家になった。

■「正しいことをやれ・・・、とにかく正しいことをやれ!」 

 このSMI雑感を書きながら、湾岸戦争で多国籍軍を率いた
H・ノーマン・シュワツコフのことを思い出した。シュワツコフ将軍は80万人の軍人を率いたが、ほとんど無傷で戦争を終わらせた。その後アメリカの大統領候補にもなった。しかし政治には興味を示さなかった。シュワツコフは1998年に、東京ベイNKホールで行われたSMI日本上陸30周年大会で記念スピーチをした。その時のスピーチは多くのリーダーに示唆と勇気を与えるものだった。そしてそのスピーチの最後にシュワツコフはいった。

「・・・
しかし、以下の2点のことを理解し、実践できたなら、今まで話した全てのことを忘れても構わない。

1、正しいことをやれ!誰かのウケのためでなく、とにかく正しいことをやれ!

2、リーダーとなったなら、率先して事に当たり、そして責任をとれ!

 この「正しいこと」とは、当然法的にも倫理的にもということだ。そして最後の言葉はリーダーの『責任』だった。そして上記のドラッカーの文章の最後も成果をあげる責任あるマネジメントこそ全体主義に変わるものであり、われわれを全体主義から守る唯一の手立てである』と「責任」を説いている。

 プーチン大統領率いるロシアは、世界に対しそして未来の人々に対しても大きな責任を負ってしまった。しかし、それも絶対に未来永劫果たしえないであろう責任を。

 次回3月のSMI雑感は、今月の続きとしてドラッカーのいった“リーダーの絶対条件は真摯さだ“を考えます。 (SMI 小杉) 2022/2/28


令和4年1月

   レジリエンスに生きる

 新しい年を迎え半月が過ぎた。オミクロン株の感染が急激に増え、社会は混乱状態にある。しかし、今年は間違いなくコロナは収まる方向へ向かい、経済も回復し社会活動も以前の状態に戻っていくと予想する人も多くなってきた。
 上記のような予想をするタイプの人を楽天家という。そして今、心理学の世界で注目されている「レジリエンスのある人」(※回復力を持った人)となる。
 この「レジリエンスの人」とは、“しなやかに生きる人”という言葉が一番当てはまるようだ。私の今年の目標は、レジリエンスを身につけ「しなやかに生きる」だ。

■合気道はレジリエンス?

 先日、モーニング・アカデミーの問い合わせを頂き、申し込みしてくださったH社長にお会いした。
 H社長は食品の卸の会社を経営している。そして空手と合気道で、長年ご自分を鍛錬しておられる。空手は茶帯でもうすぐ初段、そして合気道は初段で師範代となり、指導もしておられる。そして「空手もいいですが、今は合気道ですね」と言われた。合気道においては40Kgの体重の女性が100Kgの巨漢を投げ飛ばしてしまうという。tyu
 そうした話を聞きながら、合気道は柔術の中のレジリエンスだなと思った。100Kgの巨漢に真っ向勝負ではかなわない。相手の力を利用し、しなやかな対応する中で生まれてくる力だろう。

■レジリエンスの6つの要素


 レジリエンスとは、もともと、物体に力が加わって変形しても、いったんストレスを受けても、精神的健康を維持し回復に導く、しなやかな心理的特性のことを示す。
@肯定的な未来志向(楽観性):「ストレスフルな状況はいつまでも続くわけでもなく、未来は今より良くなる」、ストレスフルな状況においても、精神的健康を維持することができる。
A感情の調整能力、忍耐力:ストレッサーとなる刺激が加わったり、困難な課題に取り組んでいたりする場合、感情をコントロールできることが、課題を持続して安定して行うことに繋がる。状況を少し長い目で見て些細なことに一喜一憂しないことである。
B自己効力観と自尊感情:努力すれば何とかなるという感覚、そして自分の能力を過小評価しないという自尊感情が健康に保たれている状態である。
C興味関心の多様性、冗長性:1つの事柄や対象に固執するのではなく、興味関心が多様であり、多くの領域を楽しめることである。逆に言えば、特定のことばかりに固執し、気晴らしや楽しみをもてない場合は、レジリエンスが低い状態である。
D柔軟性のある認知、ユーモア:状況を一面的に見るのではなく、多様な観点から眺めてみることができる。こうした柔軟性は、ユーモアとかかわってくる。ユーモアは、ある出来事を、そのことから距離を取ってみることになる。
E他者との繋がり、サポート資源:他者とのコミュニケーションを行い肯定的な関係を保っていける能力が、レジリエンスと関連している。

■しなやかに生きる
 
 SMIプログラムには、レジリエンスの6つの要素は網羅されている。私は、中でも「逆境を活用し、逆境に感謝する」という考え方に、SMIイズムのしなやかさを感じている。

あなたは逆境に感謝しても良いのです。何故かというと逆境の一つひとつは同じくらいの、あるいはもっと大きな恩恵を生み出す種だからです。・・・何故あなたが逆境に感謝するかについて、少なくとも5つの理由を書き出してみてください。・・・あなたのリストには次のような項目が並ぶかも知れません。

@
私は、現在持っている知識や経験のなかった5年前に、この障害に出会わなかったことに感謝する
Aこの障害が取り返しの付かない損害を与える前に発見できたことに感謝する
B私は、仕事をする仲間と、信頼と尊敬の関係を築いてきて、その人達に助言と助力を求めることができることに感謝する
Cこの逆境を処理していくことが、新しい価値ある知識や知恵を得られることに感謝する。  
D私がこの逆境を克服することで、私自身にまた周囲の人々に、私の潜在能力を証明できることに感謝する。
 
 逆境にどう反応するかは、あなたが自由に決めることができます。逆境に打ちのめされるがままに任せることもできます。また、あなたはこの逆境を、これまでに使ったことのない潜在能力を働かせるチャンスだと見ることもできるのです」(※PSPプログラム第2部レッスン10より)とある。

 コロナ禍、第6波の爆発的な感染拡大の中にあって、こうした考えに触れていると「コロナ」さえ、自分を成長させる絶好のチャンスに思えてくるから不思議である。
 レジリエンスを学びながら、2022年を感謝の心で、しなやかに生きていこうと新たな気持ちにさせてもらった。 (SMI 小杉)2022/1/18